【ドレスデン】新旧交わる芸術の都〜今訪れたい話題のアートスポット
2024.03.27ドイツ東部、エルベ川沿いに佇む麗しき古都ドレスデン。バロック建築が織りなす歴史的な美と、近代的なアートの息吹が共存する街だ。古城や教会で彩られた旧市街では歴史の深みを感じ、新市街ではアーティストたちが創り出すパブリックアートに触れる。新旧が交わるドレスデンでは、過去と未来のアートがクロスオーバーする唯一無二の体験が待っている。


バロック建築群が美しいドレスデン旧市街。
新市街に華開いたアート空間
壮麗な建築物が並ぶドレスデンの魅力をさらに深化させ、新たな息吹を加えているのが「ノイシュタット(新市街)」。ここでは歴史とモダンなアート、そして活気溢れるカルチャーが交錯し、独自の魅力を放っている。カラフルな壁画が街を彩り、クリエイティブなショップやカフェが点在。夜になれば、賑やかなナイトライフがエネルギーを注ぎ込む。新市街は伝統と革新が見事に調和した、訪れる者を魅了するユニークなエリアだ。

アトリエやカフェ、ショップが並ぶ「クンストホーフ・パッサージュ」。アートで彩られたカラフルな建物を眺めているだけでも楽しい。
エルベ川を挟んだ旧市街の対岸に広がるノイシュタットの中でもアウター・ノイシュタットと呼ばれる地区は、アーティストや学生が多く住むことから、ドレスデンのトレンド発信地となっている。その一画にちょっと不思議な雰囲気が漂う「クンストホーフ・パッサージュ」と呼ばれる古いアート建築群がある。クンストとはドイツ語で「アート」、ホーフは「中庭」。その名のとおり、建物や壁がグラフィティアートなどで飾られた話題のスポットだ。
Youtube動画
アートと建築を組み合わせたクンストホーフ・パッサージュは5つの中庭が迷路のようにつながっている。そんな中庭は「エレメント」「光」「動物」「変容」「神話上の生き物」とテーマを掲げて、それぞれ異なるアーティストが手掛け、中庭そのものが表情豊かなアート作品となっている。訪問者はそれぞれのファサードに誘われ、カラフルな世界を探検気分で散策する。中庭にはカフェやレストラン、個性が光るショップやアトリエが立ち並び、他にはない特別な雰囲気を生み出している。


(2点とも)エレメントの中庭(Hof der Fabelwesen)アネット・ボール氏、クリストフ・ロスナー氏、アンドレ・テンペル氏共作。


(左)動物の中庭(Hof der Tiere)マーカス・サンドナー氏、オリバー・マッツ氏、ベイデス・サンドスタインビルドハウアー氏共作。(右)光の中庭(Hof der Lichts)デザイナーコンペ。
(上)動物の中庭(Hof der Tiere)マーカス・サンドナー氏、オリバー・マッツ氏、ベイデス・サンドスタインビルドハウアー氏共作。(下)光の中庭(Hof der Lichts)デザイナーコンペ。


(2点とも)神話の中庭(Hof der Fabelwesen)ヴィオラ・ショーベ氏作。
クンストホーフ・パッサージュの仕掛け人であるタンクレッド・レンツさんは、1996年にチーム「Ginkgo(イチョウ)」を立ち上げて以来、さまざまな場所でアートプロジェクトを実施してきた。既存のものを保存しながら、住宅地や商業地域を緑化し、アートを日常生活に浸透させて観光客と住民の両方にとって魅力的な場所を提供している。「都市中心部の古い建築エリアを想像力豊かに、社会的にも建築的にも蘇らせ、アートと自然を融合させたクリエイティブな空間に再生することを目的にしています」と話す。

多くのアートプロジェクトを手掛けてきたタンクレッドさん。
また「イチョウの木は生命力と回復力が強く、これまで多くの思想家や芸術家たちにインスピレーションを与えてきました。そんなイチョウをプロジェクトのシンボルとして植樹しています。何より夏は木陰を作ってくれますしね」と愛犬をなでながら笑っていた。タンクレッドさんは現在、ドレスデンから電車で30分ほどのマイセンでも旧市街をアートで再生するプロジェクトを進行中だという。
Kunsthof Passage
- Gölrlitzer Str. 21-25, 01099 Dresden
- https://kunsthof-dresden.de/
アート空間の"原石"を訪ねる

「変容の中庭」にアトリエを構えるイラストレーター・画家のアネッテさん。
クンストホーフ・パッサージュの「変容の中庭」にアトリエを構え、イラストレーター・画家として活躍するアネッテ・マロさん。2階にある秘密の屋根裏部屋のようなスタジオには、大小さまざまなカンバスに描かれた絵画や制作中の作品、ポスター、ドリルにノコギリといった工具などが所狭しと置かれている。油彩、アクリル、水彩、エアブラシ、インクで、大判の絵画から小さなポストカードのイラスト、壁画やカリグラフィなどまで、型にとらわれず、独自の世界を表現する。



アネッテさんのアトリエにて。さまざまな技法を使った型にとらわれない独自の世界観が魅力の作品が並ぶ。
「画家だった祖父をはじめ、私の家族は皆いつも絵を描いていました。アートがごく身近にあったため、子どもの頃はそれを仕事にしようとは考えもしませんでした。メディアデザインを学び、広告代理店でロゴ制作や執筆、写真撮影などをしていたのですが、自分で何かを生み出したい気持ちが強くなったちょうどその頃に、Ginkgoプロジェクトを通じてここにスタジオを構えることができました。ここで何でも試してみたいです。人生は短いですから」
イチョウのイラストが描かれたドアが開いている時が「オープン」の合図。アネッテさんの作品はオンラインでも購入できる。
Anette Maro Art
- Gölrlitzer Str. 23, 01099 Dresden
- https://www.anettemaro.art/
ティーソムリエが誘う豊かな茶の世界

お茶の専門店「Teerausch」にはお洒落な茶器も揃う。
「変容の中庭」を後にして、次は「光の中庭」へ。青い壁が印象的な建物の扉を開けると、店内にお茶のよい香りが立ち込めていた。ここは世界各地から選りすぐりのお茶を120種類以上取り揃えるお茶の専門店「Teerausch(ティーラッシュ)」。日本茶も40種類ほど並んでいる。


シンプルでモダンな設えにオリエンタルなエッセンスが光る店内。世界各地から120種類以上ものお茶を取り揃えている。
オーナーでティーソムリエのエルケ・ヴェルナーさんは、1杯のお茶がどこでどのように作られたかということに加え、お茶生産者の思いを届けたいと、2012年にこの店をオープン。人が集まる「サードプレイス」となる場所を作りたかったという。
「これまで世界中のお茶生産者を訪ねてきました。そんな私のお茶の旅は日本茶から始まったのです。美しい屋久島で地元産の紅茶をいただいた時の驚きは今も忘れません。まろやかさと甘さ、ベリー系の香りは、他の種類の紅茶と比較できないほど素晴らしいものでした。まだまだ発見すべき国や伝統がたくさんあります。生産者とその家族に会い、あらゆるお茶のストーリーを伝えていきたいです」



テイスティングでお気に入りのお茶を見つけたい。スタッフのアスマラさん(左)とアディーナさん(右)。
Teerauschではお茶に関するさまざまなセミナーを定期的に開催している。「お茶は単なる飲み物ではありません。リラックスしたい時、集中したい時、コミュニケーションツールとして、さまざまな状況で目的にあった効果をもたらします」。ここでならきっと、いつもとはちょっと違ったお気に入りのお茶に出合えることだろう。