整備士が語る、エアバスA350型機の「新しさ」とは?―― 6月末から羽田-ロサンゼルス線も就航!
2025.05.13空の上で、空港で、日常で――。JALグループの舞台裏を紹介する連載企画。今回は整備士の視点からエアバスA350型機の魅力を紐解く。

就航前のA350-1000型機の7号機(登録記号JA07WJ)。エアバスでの組み立てスケジュールの関係で、JALに納品されたのは通算9機目となる。
国際線エアバスA350型機の就航路線が拡大!整備士から見た魅力とは

2024年1月24日の羽田-ニューヨーク線を皮切りに、ダラス・フォートワース線、ロンドン線、そして2025年5月1日から羽田-パリ線に就航。そして6月30日から待望のロサンゼルス線が就航する。
快適な湿度環境と静音性に優れた機内空間。炭素繊維複合材料(カーボンファイバー)を機体の広範囲に使用することで軽量化を実現し、燃費性能も大きく向上――。エアバスA350型機は、その性能と経済性を兼ね備えた“次世代の主力機”として、航空業界で高く評価されている。
これまで「agora plus」では、JAL機長による連載コラム「コックピット日記」を通じて、パイロット目線でA350型機の魅力を伝えてきた。今回は地上から安全を支える整備士の視点で、その先進性を紹介していく。

新造機は、羽田空港の格納庫で10日間ほどかけて点検を行う。

JALエンジニアリング
一等航空整備士
中薗銀次
エアバスA350型機およびボーイング737型機の一等航空整備士資格を保有。2018年の入社以来、主にハンガー(格納庫)にてフライトコントロール、動翼、ランディングギアといった機体の中枢を担う重整備を担当している。現在はボーイング767型機の一等航空整備士資格取得を目指して勉強中。「いずれは787型機にも挑戦し、ゆくゆくは国内外の空港での勤務も経験してみたいですね」。趣味は筋トレ。
整備士から見た、エアバスのココがすごい!
――エアバスA350型機は最新鋭の飛行機として知られていますが、整備士の視点から見た時、従来機とはどう違うのでしょうか?
JALエンジニアリング 中薗銀次(以下、中薗)
操縦装置がコンピューター制御になっている点ですね。機体に新しいソフトウエアをインストールして、機能を追加・変更する。感覚としては、まるでパソコンやスマートフォンのように、アプリを入れて機能を拡張しているイメージです。同じような傾向は、ボーイングの787型機にも見られます。

国家資格の一等航空整備士は、機種ごとに取得が必要になる。「資格取得のための勉強は大変ですが、すぐに業務に活かせるのでやりがいがあります」(中薗)。
――ボーイング機とエアバス機では、整備の進め方にも違いがあるのでしょうか?
中薗機体の構造そのものには、実はそれほど大きな差はありません。ただ、使われている単位や呼び方、システムの名称には違いがあります。
ボーイングではアメリカのヤード・ポンド法(重さ=ポンド、長さ=インチ)を使いますが、エアバスでは日本になじみのあるメートル法(重さ=キログラム、長さ=センチメートル)が採用されています。
また、部品やシステムの名称も異なります。ボーイングでは「ラッチアクセスパネル(Latch Access Panel)」と呼ばれているものが、エアバスでは略して「LAP」。こうした違いがあり、慣れるまで少し戸惑いはありました。
用語にも“文化の違い”。システム呼称の一例
●ランディングギア(着陸装置)を機体に出し入れするための油圧システム
- ボーイング……エクステンション・リトラクション・システム(Extension Retraction System)
- エアバス……エルギアス(LGEAS)
- LGEAS=Landing Gear Extension and Retraction System(ランディングギア・エクステンション・アンド・リトラクション・システム)の略語
●航空機の燃料タンク内で、引火性の蒸気による爆発リスクを低減するために、酸素濃度を下げる窒素ガスを充填するシステム
- ボーイング……NGS[Nitrogen Generation System(ニトロゲン・ジェネレーション・システム)の略語]
- エアバス……IGGS[Inert Gas Generation System(イナートガス・ジェネレーション・システム)の略語]
- ニトロゲン=窒素。イナートガス=不活性ガス。不活性ガスの代表的なガスが窒素。

中薗は二輪自動車の整備士だった父からの助言がきっかけで航空整備士に。
――初めてA350型機を整備した時の印象はいかがでしたか?
中薗部品の名称が違うだけでなく、専用ツールもそれぞれ異なるため、最初は手探りの状態でした。でも、資格取得に向けた勉強や現場での経験を積んでいくうちに、A350型機は「整備士に優しい飛行機」だと感じています。
――「整備士に優しい」とは具体的に?
中薗例えば、航空機の部品一つ一つに、その取り付け位置や機能を示す番号が付けられています。エアバスでは、この番号を検索するだけで、部品の名称や交換手順、関連情報などが表示されるため、情報が整理されていて調べやすいんです。何か一つ情報を見つけると、関連する内容も一緒に参照できる。縦のつながりだけでなく横のつながりとして他のマニュアルや資料にもリンクされているのが非常に助かりますね。

ランディングギアの点検は入念に行う。
――整備の効率化にもつながっていそうですね。
中薗はい、そうだと思います。航空電子機器(コンピューター類)がコックピットの中に設置されていない機種は別の場所に行って作業するところ、A350型機ではコックピット内でコンピューター類のテストをかけることができます。さらに機長席と副操縦士席の前にある2つの画面に加えて、後方の整備用モニターも使えるので、3台の画面を同時に使ってテストが進められるのがメリットです。そういったところでも、整備の効率が上がっていると感じます。


A350型機ではコックピット内で直接テストが可能に。「機体下部や別の整備パネルに移動しなくても、テストを実施できるのが大きな利点です」(中薗)。

航空機への燃料の給油・排出を制御・監視するための操作パネル。「A350型機は、手を伸ばせば届くところにあるので作業が楽になりました。翼の下に設置されている機種だと、高所作業車が必要になるんですよ」(中薗)。
――A350型機には機体の53%に、炭素繊維複合材料(カーボンファイバー)が使用されています。整備する上で注意点はありますか?