左岸で過ごす、豊かな時間。フランス文化にたっぷり触れてパリを深く知る
2025.10.14

芸術の街・パリと聞けば、まず思い浮かぶのはルーブル美術館やオルセー美術館といった世界的に有名な美術館だろう。けれど、もし二度目のパリを訪れるなら、少し視点を変えて、地元の人々が通う小さな文化施設に足を運んでみよう。華やかな観光地としてのパリとは少し違う表情が見えてくる。パリの人々が日常的に触れる文化を体感しながら、少し肩の力を抜いて、自分らしい時間を過ごそう。
パリジャンが愛する邸宅美術館〜Musée Maillol(マイヨール美術館)
セーヌ川を挟んだパリ左岸にある「Musée Maillol(マイヨール美術館)」はデパート「Le Bon Marché(ル・ボン・マルシェ)」や各国大使館、歴史ある建物が集まる7区に位置する。美術館の前身は18世紀に建てられた邸宅だったという。

マイヨール美術館のエントランス。
美術館を開いたのは、彫刻家アリスティッド・マイヨールの晩年のモデルであり、ミューズであったディナ・ヴィエルニー。彼女が収集したマイヨールの作品と現代美術、そして年2回の企画展を行う私設美術館だ。

館長のオリヴィエ・ロルカンさん。隣の写真は彼の母で美術館を設立したディナ・ヴィエルニーとマイヨールの作品を撮影したもの。
現在の館長はディナの息子であるオリヴィエ・ロルカンさん。「美術館の歴史は、1955年に母がここに小さなアパートを買ったことから始まりました。当時、ここは住宅として使われており、その一角に家族で住み始めました。1970年代の終わりから、母はこの建物を少しずつ購入。やがてすべての物件が母のものになったのち、大掛かりな改築を行い、1995年に美術館がオープンしました」とロルカンさんは語る。

企画展を行う1階の展示室。マイヨールのアトリエを再現したスペースの周りにかけられているのは、パリを代表する報道・ファッション写真家、ロベール・ドアノーの作品。
ロルカンさんと共に、まずは地上階から訪問を始めよう。エントランスの奥にはミュージアムショップがあり、その奥が最初の展示室だ。
「以前エントランスには鮮魚店があり、その奥のショップは薬品のラボでした。さらに奥の展示室はキャバレーで、プレヴェール兄弟が手がけた四季の噴水があります」
地上階の展示室の一角にはマイヨールのアトリエを再現したスペースがあり、石膏模型を鑑賞することができる。

「人間の胴体はマイヨールにとって重要なテーマ。彫刻作品は、胴体から制作を始めたそうです」とロルカンさん。後ろのマイヨールの作品写真はドアノーが撮影。
元邸宅を利用した美術館は3階建てと小規模ながら、その作品展示は見応えがある。1階と2階は企画展、3階は常設展のフロアだ。常設展には、企画展のアーティストの作品もところどころに展示をしている。
「展示のコンセプトは『マイヨールとアーティストの対話』。マイヨールの作品と、私たちがセレクトしたアーティストの作品を並べて鑑賞しながら、まるで2人のアーティストが対話をしているような感覚を体験していただきたいと願っています」

最上階の展示室では、自然光のもとにマイヨールの代表作を鑑賞できる。
3階の展示室では、マイヨールの重要な彫刻作品を鑑賞することができる。女性の肉体を滑らかで力強く表現したブロンズ彫刻が静かに佇み、神秘的な雰囲気を醸している。
美術館を訪れて感じたのは、訪問者が話している言語が、ほぼフランス語であることだ。「ビジターはフランス人が最も多いですね。年間35〜40万人の入館者のうち、国外から訪れる方もおり、有料のオーディオガイドはフランス語と英語に対応しています」

18世紀の木工細工が美しい部屋には、デッサンやパステル画を展示。
館内にはマイヨールの彫刻の他、絵画、デッサンも展示されている。「企画展ごとにセノグラフィスト(展示デザイナー)が展示方法を変え、毎回訪れる人に新鮮さを感じていただけるよう、努力しています」
マイヨールとアーティストへの敬意を払い、丁寧な展示を行うマイヨール美術館。訪れるたびに新たな発見と感動に出合えることだろう。
Musée Maillolマイヨール美術館
- 59-61 Rue de Grenelle, 75007 Paris
- 営業時間 10:30〜18:30(水〜22:00)
- ※チケット販売は閉館1時間前まで
- 無休
- https://museemaillol.com/
フランス映画界を覗き見。歴史を背負う屈指の名画座と、名女優の自宅を再現するカフェで過ごすひと時
アートと同じく、芸術大国・フランスの文化には「映画」もある。パリにはもちろん大きなシネマ・コンプレックスもあるが、左岸には実は老舗の名画座が多いことでも知られている。観光旅に映画とは少し意外かもしれないが、数々の歴史を目撃してきたフランスの名画座ではフランス文化のエッセンスを感じられるため、おすすめだ。
マイヨール美術館からも、徒歩で行ける名画座があるので、パリの左岸の風景も楽しみながら向かうのがいい。
Rue du Bac(バック通り)はセンスの良いショップが集まり、ショッピングが楽しい場所だ。

バック通り。著名なショコラティエやセンスの良いショップが軒を連ね、買い物が楽しめる。
老舗デパート「ル・ボン・マルシェ」のあるセーヴル通りを東に進み、サンジェルマン・デ・プレへ。この辺りでは、センスのいいマダムやおしゃれなムッシュの姿も多く見られ、洗練されたパリの日常を見るのも楽しい。サンジェルマン・デ・プレ教会裏の小道を散策し、カフェが集まる賑やかなRue de Buci(ビュッシ通り)を東に進んでいくと、カルチェ・ラタンに到着する。

ビュッシ通りにはカフェが並び、絶えず活気に溢れている。
フランス語での映画鑑賞は、なかなかハードルが高いようだが、洗練された映像美や音楽を楽しむ時間も悪くない。さらに、日本の古い映画や誰もが知る名画をフランスで鑑賞するというのも特別な経験になるだろう。
ソルボンヌ大学があることで知られ、文化人や知識人が集まるこのエリアには、旧作を上映している映画館も多い。