サイドスティックに「経験から学ぶ」訓練… エアバスA350型機で変わった操縦スキルと、変わらないパイロットの重要性
2026.05.13「コックピット日記」では毎回、機長がパイロットや飛行機に関する航空豆知識を、実体験を交えてご紹介します。今月の担当は、エアバスA350型機機長の島村 真です。
同サイズの既存機種に比べ大幅な低騒音化と燃費改善を実現したエアバスA350型機(以下、A350)。特にJALグループが運用するA350は、インテリアのデザインや客室乗務員のサービスに日本ならではの“おもてなし”の心を取り入れており、国内外のお客さまから高い評価を受けています。
私がA350のパイロットになったのは2021年。それまでは20年以上にわたり、ボーイング747-400型機や777型機に乗務していました。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、エアバス社製の旅客機は、操縦面においてボーイング社製とまったく異なると言っても過言ではない設計思想にもとづき製造されています。
そのためA350への移行訓練では多くのパイロットが、ある意味の戸惑いを経験しながら最新鋭機の操縦を体得しています。今回は、最新鋭機への移行にあたっての技術的な変更点と、中でも大きなポイントである「サイドスティック」についてお話させていただきます。
形状だけではないサイドスティックとコントロールホイールの大きな違い
旅客機の操縦装置と聞いて、大半の方は自動車のハンドルに近い形状のコントロールホイール(操縦かん)をイメージされるのではないでしょうか。実際、ボーイング社製を含め従来の旅客機の多くがコントロールホイールを採用しています。
対して、エアバス社製旅客機の先進性を象徴する存在にもなっているのが、ゲーム機などのジョイスティックに近い形状のサイドスティックです。
エアバスA350型機機長 島村 真
両者の違いは形状だけではありません。コントロールホイールがパイロットの正面に配置されており基本的に両手で操作するのに対し、サイドスティックは名前のとおり、パイロットの左側に配置されており(右席では右側に配置)、片手で操作することになります。
そのため移行訓練がはじまりサイドスティックを目の前にした時点では「こんなに小さいもので、本当に片手で飛行機の操縦ができるのか?」と不安をおぼえたものです。
さらに戸惑ったのが手元に伝わる感覚の違いです。ボーイング社製旅客機のコントロールホイールの場合、物理的なワイヤを介さず翼を動かすフライバイワイヤ(FBW)を採用していても、翼を動かす物理的な感覚(フィードバック)がある程度再現されており、いわゆる「操縦の手ごたえ」をリアルに感じることができます。
対して、A350のサイドスティックにはフィードバックがまったくありません。自動車のハンドルを操作する際に感じる手ごたえがまったくない、といえばその“頼りなさ”が伝わるのではないでしょうか。最初はその点にも大きな戸惑いをおぼえたことは、言うまでもありません。





