【ベトナム中部】懐かしくて新しい、世界遺産ホイアンを巡る~知る人ぞ知る旧家の味から、新時代のバンブーサーカスまで~
2024.06.27古くから「海のシルクロード」の中継地として栄えてきたベトナム中部の港町ホイアン。1999年に世界文化遺産に指定された旧市街は、旧暦の毎月14日の夕暮れから始まるランタン(提灯)祭りが有名だが、魅力はそれだけではない。新旧渦巻くホイアンの今を巡る。


ホイアンの夕暮れ時。街の灯りが揺れる川面を滑るように、灯籠流しの小舟が行き交う幻想的な風景が広がる。
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のんびりとした雰囲気が心地いい、ノスタルジックな旧市街をそぞろ歩き

肩を寄せ合うように立ち並ぶ民家の軒先を、色とりどりのランタンが彩る。

気温もまだ穏やかな早朝。夜は観光客で賑わう橋も、地元の人々にとっては日常の通学路。
澄み渡る空の下、川向こうにクチナシ色の土壁の家々が連なる。そのかたわらでは乾期を告げるブーゲンビレアがしだれ咲き、赤紫色の花吹雪のように盛夏の街を染め上げていた。
ホイアンは16世紀後半~17世紀の朱印船貿易時代に日本や中国、オランダやポルトガルなど各国の船が来航した、国際色豊かな港町だ。トゥボン川沿いに広がる旧市街には、陰陽瓦をふいた18世紀頃の街並みが残り、どこか懐かしさを覚える。



(左・中央)カフェやハーブティースタンドなど、地元の若い世代が営むお洒落な店も増えてきた。 (右)日本人によって架けられたとされる来遠橋は、日本橋とも呼ばれる街のシンボル(2024年6月時点は、改修のため閉鎖中)。
(上・左)カフェやハーブティースタンドなど、地元の若い世代が営むお洒落な店も増えてきた。 (右)日本人によって架けられた来遠橋は、日本橋とも呼ばれる街のシンボル(2024年6月時点は、改修のため閉鎖中)。

ホイアンはカフェ天国。ロブスタ種の豆に練乳をあわせた昔ながらの甘いベトナムコーヒーだけでなく、アラビカ種の豆を使ったコーヒー店も軒を連ねる。

のんびりとした空気に包まれるホイアンにはシクロが似合う。旧市街は(時間にもよるが)車両の乗り入れ禁止エリアのため、歩きやすいのも魅力。
川岸からバックダン、グエンタイホック、チャンフーの順に東西に走る3つの通りが街巡りの中心となる。屋内で涼んでいるのだろうか、強い日差しが照りつける日中は人影もまばら。木陰でうつらうつらと昼寝に興じるシクロ(ベトナムの三輪車)の運転手を横目に、一軒の旧家を訪れてみた。
先人の知恵と暮らしを守る旧家「クアンタンの家」に潜入。家庭の味が、街の名物料理に
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「扉や柱の装飾がきれいでしょう?これは郊外にある16世紀から続くキムボン木工村の職人が手掛けたものなんですよ。初代は漢方薬の貿易で財をなした福建省出身の華僑商人で、家は約300年前に建てられました」
「クアンタンの家(均勝號)」の名で知られるこの旧家は、旧市街屈指の名建築とされる。案内してくれたのは、7代目のディエップ・アイ・ヴァンさん。梁や垂木、中庭を取り巻く鎧(よろい)戸まで、そこここに緻密な彫刻が施されている。コウモリ、鯉など招福の意匠に、一族の繁栄を願う家主の想いが伝わってくる。

クアンタンの家の彫刻は、保存状態のよさでも知られる。鎧戸の連子(れんじ)窓や欄間(らんま)を彩る華麗な装飾は必見。
旧家はどれも、ウナギの寝床のように細長い。前家、中庭、後ろ家と3つの空間に分けられ、前家は商店、中庭は憩いの場、後ろ家は住居として使われた。
「毎年のように起こる洪水対策として、柱に沓(くつ)石を設けたり、敷居の下部に穴をあけ水はけをよくしたり。華麗な外観の中に、実は暮らしの知恵が詰まっているのです」(ヴァンさん)

「ホワイトローズ」(5万VNドン/約310円)は香ばしい揚げ玉ネギをふりかけて。(写真奥)同じくホイアン名物の「揚げワンタン」(5万VNドン)。
クアンタンの家ではホイアン名物も楽しめる。その形から「ホワイトローズ」と呼ばれる海老の蒸し餃子だ。今では街の多くのレストランでも提供されるが、生み出したのは同家の4代目。親族が営む3軒だけが伝統のレシピを継承しているという。

母から娘へ、そして孫へ。秘伝のレシピは代々受け継がれる。
頬張ると、もちもちとした米粉の生地の中から、海老餡の豊かなうま味が広がる。なるほど。家族総出で作る約500個が、その日のうちに売り切れるというのも頷ける。

奥の土間がホワイトローズ作りの作業場。ヴァンさんら家族が一つ一つ手作業で包む。

黒檀や紫檀の重厚な柱や扉に、鮮やかな緑色の壁が映える。かまどの神や土地神を祭る祭壇に、日々の暮らしが垣間見られる。
Quan Thang Ancient House(均勝號/クアンタンの家)
- 77 Tran Phu, Minh An, Hoi An, Quang Nam
- 入館時間:8:00〜19:30
- 入館料:旧市街チケットが必要(5枚綴り12万VNドン/約744円)
まるで博物館。少数民族に恋い焦がれ、消えゆく文化を後世へつなぐ気鋭の民芸店

北中部のゲアン省から移築したタイ族の高床式住居を転用した店舗。夫妻が全国から収集した彫刻や織物が並ぶ。
旧市街を離れ、郊外の農村を訪ねてみた。お目当ては少数民族が作る民芸・手工芸品のギャラリー兼カフェ「アンニャン・エクスクイジット・カルチュラル・ギャラリー&コーヒー」。オーナーのレ・アン・キエットさんとレ・ティ・タイン・ヤンさん夫妻は、共にホーチミン市で働いていたが、少数民族好きが高じて故郷のホイアンに戻り、2017年に店を開いた。