【昼の札幌】『ゴールデンカムイ』で注目の開拓時代へタイムスリップ! 旅の楽しさが倍増する、カルチャーウォークの旅
2024.08.14ダイナミックな自然、採れたての食材――、北海道の魅力は尽きることがなく、幾度となく各地を訪れた方も多いだろう。その旅の楽しさを倍増させるのが、土地の歴史を楽しく学ぶ、カルチャーウォーク。漫画『ゴールデンカムイ』の実写化で注目される開拓時代を体感してみませんか。


旧札幌停車場は、かつて札幌市民に「ていしゃば」として親しまれた3代目の旧札幌駅舎を再現。洋風建築様式を取り入れたことから、当時の札幌でもっともハイカラな建物といわれていた。
森に抱かれた「北海道開拓の村」でカルチャーウォーク
1908(明治41)年に建てられた旧札幌停車場(縮小再現)を抜けると、タイムスリップしたかのような明治時代の街並みが広がっている。「北海道開拓の村」の出入り口でもあるこの管理棟は、北海道の現代と過去とをつなぐ改札口といってもいいだろう。
「北海道開拓の村」は、54.2haもの広大な敷地に、明治から昭和初期に建築された北海道各地の建造物を移築復元・再現した野外博物館だ。白樺やトドマツなどの樹木が茂る森に、歴史的な建物が52棟点在している。

現在、札幌市内を走る路面電車は、この馬車鉄道が端緒。左の建物が、旧小樽新聞社。冬季は、馬ソリに変わる。
シャンシャンと鈴の音を響かせて、ニセアカシアの並木道を走るのは、往時の馬車鉄道。昔から農作業や荷物の運搬に重用されてきた北海道和種馬(どさんこ)が、ここでは観光客を乗せる馬車をゆっくり引いている。
欧米の邸宅のような瀟洒な木造建築は、旧開拓使工業局庁舎。外壁に札幌軟石を積み上げた3階建てのビルは、旧小樽新聞社。ほとんどの建物は中に入ることができて、当時の様子をありのままに体感できる。まさに過去へのタイムスリップ空間だ。
Youtube動画

旧開拓使工業局庁舎。開拓使関係庁舎として、唯一現存する建物。

「北海道開拓の村」にある旧近藤染舗は徳島から渡道し、旭川で開業。

再現された旧開拓使札幌本庁舎。明治初期、ハイカラな西洋館は札幌のシンボル的存在だった。
メインストリートに立つ旧三〼河本そば屋は、今でも営業していそうな佇まい。漫画『ゴールデンカムイ』を読んだ方なら、この建物に見覚えがあるかもしれない。
『ゴールデンカムイ』は、明治期の北海道を舞台に、アイヌの金塊を巡って登場人物たちが争いを繰り広げる物語だ。漫画には、北海道開拓の村スタッフの調査によると、モデル・イメージになったとされる建物が37棟も登場するという。2024年1月に公開された実写版の映画では、主人公が馬ソリで引きずられる緊迫のシーンがここで撮影された。ファンにとっては“聖地”とも言える場所なのだ。

村内には、当時はまだ珍しかった西洋建築も多く移築されている。
1869(明治2)年、明治政府が、欧米の文化や技術を取り入れ、農業や鉱工業などを振興するために北海道に設けた役所が、開拓使。本州各地から一旗上げようと、大きな希望を胸に多くの人々が北海道に移住した。
「北海道開拓の村」は、市街地、山村、漁村などのエリアに分かれており、全体で当時の移住者の暮らしぶりや北海道独特の産業構造がわかる仕組みになっている。



(左)明治30年代、砂金掘りでにぎわった中頓別市街に大正前期に建てられた雑貨店「旧渡辺商店」。 (中央)旧広瀬写真館では、記念写真を撮ることもできる。 (右)開拓の村食堂では、いももち、味噌おでん、紅昆布めしなどをセットにした「屯田兵定食」(1,180円)も味わえる。
(上)明治30年代、砂金掘りでにぎわった中頓別市街に大正前期に建てられた雑貨店「旧渡辺商店」。 (左)旧広瀬写真館では、記念写真を撮ることもできる。 (右)開拓の村食堂では、いももち、味噌おでん、紅昆布めしなどをセットにした「屯田兵定食」(1,180円)も味わえる。
村内は、緑の中をゆっくり散歩しながら、ボランティアによるガイドツアーで巡ってみたい。さまざまな建物を訪れるほどに、北海道の今の暮らしの“基礎”が見えてくる。
野外博物館 北海道開拓の村
- 北海道札幌市厚別区厚別町小野幌50-1
- 011-898-2692
- 営業時間 9:00〜17:00(入場16:30まで/5月〜9月)、9:00〜16:30(入場16:00まで/10月〜4月)
- 月曜、12/29〜1/3 休館
- 入場料1,000円
- https://www.kaitaku.or.jp/
北海道の酪農の原点を感じながら、おいしい牛乳を

「札幌農学校第2農場」は、国の重要文化財。夏季のみ屋内も公開、冬季は屋外のみ見学可。
開拓時代から現存する最古の建物が、北海道大学構内に保存されている。「札幌農学校第2農場」には、まるで牧場のようなのんびりした空気が流れていた。
「我々が学生の頃には、学内にもっとたくさんハルニレの樹々がありましたね。今でもこの第2農場のあたりには、100年を超える巨樹が残っています」
語ってくれたのは、北海道大学名誉教授の近藤誠司さん。

札幌農学校第2農場の管理者でもある近藤さん。後ろは、牛乳をバターやチーズなどに加工する製乳所。

19世紀に北米で生まれた2×4(ツーバイフォー)工法を取り入れた家畜房「モデルバーン」。
「第2農場は、札幌農学校の初代教頭であったW・S・クラーク博士が、欧米式の畜産技術を教育するために、1877(明治10)年に発足した農場です。1910(明治43)年この場所に移転後、いくつかの施設が加わりました。モデルバーンと称される家畜房は、外壁に目打ち板のバタくさい意匠が施されていて今見ても洒落ていますよ。クラーク博士が理想としたのは、牛乳からチーズやバターを製造し、副産物であるホエー(乳清)を豚に与えて養豚し、草を育てて乳牛に与える循環型の畜産でした」



(左)アメリカから輸入したホルスタイン種の原簿。 (中央)下見板に板棒を打ち付けたスティックスタイル様式。 (右)札幌軟石を用いた現存最古の円筒形石造サイロ(緑飼貯蔵室)も残る。
(上)アメリカから輸入したホルスタイン種の原簿。 (左)下見板に板棒を打ち付けたスティックスタイル様式。 (右)札幌軟石を用いた現存最古の円筒形石造サイロ(緑飼貯蔵室)も残る。
「施設内の展示物に、初めて日本に輸入された米国ホルスタイン種協会で血統登録を受けたホルスタイン種の原簿があります。現在、学内の酪農施設で飼養されている乳牛は、全てこの最初の雌3頭の直系子孫。この乳牛群から生産された牛乳が、これも学内にある『北大マルシェCafé&Labo』に出荷され、製品として販売されているわけです」
札幌農学校を始まりとする北海道大学は、北海道各地に広がった近代酪農の発祥地であり、クラーク博士が理想とした循環型の畜産システムが、現在に受け継がれている場でもある。
北大マルシェCafé&Laboで、搾りたての「北大牛乳」を飲むと、爽やかな草の香りが心に染み入った。

学内にある北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの酪農施設(見学不可)。


「北大マルシェCafé&Labo」では、北大牛乳のほか、プリンやアイスクリームなども販売。
Youtube動画
「札幌農学校第2農場」は、「北海道大学総合博物館」の一部として管理運営されている。第2農場を訪れたら、ぜひ博物館の本館にも足を運んでみたい。展示では、北海道大学の歴史や関連する人物史と共に、開拓時代から現在まで続く、リベラルな精神風土を実感できる。12学部の各部局が、それぞれ自由に研究の成果を発信している点もユニークだ。