【ノーザンテリトリー】大地の力と神秘を訪ねて〜ウルル‐カタ・ジュタ国立公園からアボリジナルピープルの文化体験まで〜
2024.09.27
果てしなく続く大地に存在感を放つ大きな岩。オーストラリアに行ったことがない方でも、この岩の写真を一度は目にされたことがあるのではないだろうか?
先住民のアボリジナルピープルに「ウルル」と呼ばれてきたこの巨岩は、かつて古代の海底に沈んでいたといわれている。
想像を絶する自然の営みは、私たちに何を語りかけてくれるのだろうか。


1873年に発見されたウルル。当時の南オーストラリア州首相ヘンリー・エアーズ卿にちなんで、1985年まではエアーズ・ロックと呼ばれていた。
アボリジナルピープルの聖地、ウルル
オーストラリア大陸のほぼ中央に位置するウルルまでは、シドニーから空路で約3時間半。この一帯は赤土の大地が広がる準砂漠地帯で、「レッドセンター」と呼ばれている。雨の少ない地域ゆえ、土に含まれる鉄分が酸化して長い年月をかけて赤く変色していったそうだ。

朝焼けのウルルを一目見ようと、日の出前から多くの人が集まってくる。
巨岩ウルルは、およそ9億年前にできた地殻の窪みに堆積物が積もって形成されたという一枚岩の一部。朝焼け、夕焼け、星に照らされる静寂の時――、時間の経過と共に移り変わる異なる表情は、自然の神秘を感じさせてくれる。日の出前に撮影スポットを訪れてみると、すでに大勢の人が集まっていた。オーストラリア人にとっても一度は行ってみたい場所のようで、日本人にとっての富士山のような存在なのかもしれない。
夕暮れ時から夜にかけてウルルを堪能するには、格好の特等席がある。屋外に用意されたテーブルでウルルを眺めながら、食事ができるエアーズ・ロック・リゾートの「タリ・ウィル」だ。

夕日に沈みゆくウルルを眺めながら、コース料理とワインを味わう贅沢な時間。
「前菜にはこの土地でアボリジナルピープルが食してきたカンガルー、エミューも用意しましたので、ぜひ味わってみてください」
シェフの説明とともに、アペリティフとブッシュ・フード*を取り入れたカナッペで宴はスタート。
- *アボリジナルピープルが伝統的に食べ物として用いてきた動植物。

ワンスプーンオードブルには野生カンガルー肉と炒めた玉ねぎ、ハーブを添えて。

アボリジナルピープルの食について説明するシェフ。タリ・ウィルとは、現地のアナング語で「美しい砂丘」を意味するそうだ。
メイン料理はオーストラリアで人気沸騰中のWagyu(和牛)*。オーストラリアの牧場で飼育され、口の中で溶けるように柔らかい食感と風味のよさから高級牛として広まっている。オーストラリアで人気のワイナリー、ペンフォールズのカベルネ・ソーヴィニヨンをあわせて。
- *日本以外で生産された和牛由来の遺伝子含有率50%以上のものが「Wagyu」と定義されている。



メインのWagyuにあわせるのは、Penfolds BIN 407 Cabernet Sauvignon。豊かな果実味とタンニンが調和、フレンチオーク樽とアメリカンオーク樽を使い分けて熟成させたフルボディ。スタッフも笑顔でおもてなし。
夕日から星空に移り変わる空の下で、ウルルを眺めながら楽しめるディナーは他では得られない特別な体験。タイから訪れていた男性は、昨年、大学院の博士号を取得したのでその記念に参加したと嬉しそうに語ってくれた。


日が落ちた後は、満天の星の下でディナーの続きを。スタッフによる星座の説明も楽しめる。
また早朝、ラクダに乗ってウルルとカタ・ジュタを眺めるという一味違ったアドベンチャーもおすすめだ。レッドセンターの準砂漠地帯では馬やロバではなく、水がなくても元気なラクダが物資の運搬に活躍していたという歴史があり、現在もラクダ牧場が存在している。
オーストラリアの準砂漠地帯でラクダに乗って、かつて海面下にあったという巨大な岩を巡る体験は、自然の力と神秘を改めて感じさせてくれる思い出深いものになるはずだ。

ラクダはオーストラリアの鉄道の建設においても物資の運搬になくてはならない存在だった。

赤土をゆっくり進む。日が昇ってくると、カタ・ジュタの姿がはっきりと浮き上がってきた。
36の奇石群、カタ・ジュタのトレイルコースへ
約6億年前に海面下に誕生し、造山運動と地殻変動を繰り返して36の奇石群を形成したのが礫岩(れきがん)でできたカタ・ジュタだ。一枚岩のウルルと異なり、よく見ると岩壁に小石を見つけることができる。
「ウルル‐カタ・ジュタ国立公園」は、1987年に世界自然遺産、1994年にはアボリジナルピープルの伝統的な文化、芸術が評価されて、自然遺産と文化遺産両方を有する世界複合遺産にも登録されている。「自然」と「文化」の二つの世界遺産として登録されることは非常に珍しいことであり、またこの土地においては、オーストラリア政府がアボリジナルのアナングの人々から借りていることを、訪れる私たちも理解しておかなければならない。

「カタ・ジュタ」という名前は「たくさんの頭」という意味。
「自分たちの文化を世界の人々に伝えることをアボリジナルピープルは歓迎していますが、特に『ウルル』は非常に神聖な存在ですので、祖先の魂が込められている壁画や穴など撮影できない箇所もあります。私たちがその規定を守ることは、彼らの文化に敬意を払うことなんです」
優しい笑みと共に迎えてくれたのは、パークス・オーストラリアのレンジャー、スティーブン・ボールドウィンさん。この地域を守ってきたアナングの人々の思いを理解してもらいたいと、説明役を担っている。
アボリジナルピープルには、祖先の魂は大地と空から生まれたという信仰があるので、彼らにとって土地とのつながりは計り知れないほどに大切なものなのだ。

カタ・ジュタは20km以上にわたって連なる36の巨大な巨石群で、最も巨大なウォルバ渓谷に片道30~40分ほどのトレイルコースが設けられている。
ウルルとカタ・ジュタ一帯は、長年オーストラリア政府の管理下にあったが、1985年10月26日に本来の土地の所有者であるアナングの人々に返還されたという経緯がある。以降、それまで使用されていたエアーズ・ロックという名称もアナングの人々が用いているウルルへと変わり、登山も禁止されることとなったのだ。

カタ・ジュタの岩は、大小の石と巨礫(きょれき)が砂や粘土で固められた礫岩でできている。人間が米粒のように見えてしまうほどに大きな岩だ。
アボリジナルピープルは言葉はもっていたが、文字がなかったので、儀式や文化、重要なことは口頭で受け継がれていたそうだ。また絵で表現することもあり、それらはウルルやカタ・ジュタに壁画として残されているものもある。
今でこそ英語が話せる人々も増えてきたが、それまで伝授されてきた大切なことは、ごく一部のアボリジナルピープルにしか知らされていなかったという。現在、アボリジナルの子どもたちの多くが学校に通い、英語で教育を受けている。
ウルル‐カタ・ジュタ国立公園
- Lasseter Highway, Yulara, Northern Territory, 0872
- 3Day Pass/大人38ドル(AUD)
- https://parksaustralia.gov.au/uluru/
文字をもたない人々が描き、語り続けるもの
「ウルル‐カタ・ジュタ国立公園」近くに位置するエアーズ・ロック・リゾート。そこには宿泊施設の他、ショップやカフェなどが集まるタウンスクエア、マーケットや郵便局などが揃っていて、住民もここで買い物をするのでみんな顔見知りになるのだそう。