DC-10、ボーイング777、エアバスA350……。パイロットの仕事は、進化する飛行機と共に
2024.10.15「コックピット日記」は会員誌『AGORA』から続く、JAL機長によるエッセイです。
5人の機長が毎回交替で、パイロットや航空機に関する話などをご紹介しています。
今月の担当は、エアバスA350型機機長の西谷公男です。


青空にて、最終進入体制のエアバスA350型機
約4年間にわたり「コックピット日記」を担当させていただきましたが、本記事をもって後任にバトンを引き継ぐことになりました。今回は振り返りと感謝の気持ちを込めて、DC-10型機、ボーイング777型機、エアバスA350型機を操縦してきた私なりの経験を、皆さまにお伝えしたいと思います。
私がパイロットとしてチェックアウト(副操縦士昇格)したのは1999年。最初に搭乗した飛行機が、アメリカのマクドネル・ダグラス社のDC-10型機でした。1970年代に登場したこの機種は、 “スポーツカー”と呼ばれるほどスピードのある飛行機で、コックピットには速度計や高度計などのアナログ計器がT字型にずらりと配置されていました。今振り返ると、DC-10型機は私自身が子どもの頃に思い描いた「飛行機らしい飛行機」だったと思います。

垂直尾翼のジェット・エンジンが特徴的な、DC-10型機。
その後、機種移行訓練を経て、2006年からボーイング社の777型機に搭乗することになりました。1990年代半ばに登場した777型機は当時の最先端の飛行機ですから、1970年代生まれのDC-10型機とはさまざまな違いがありました。
例えば、DC-10型機は2名のパイロットと1名のエンジニアの3名体制で運航していましたが、機体の信頼性がより高まった777型機では、2名のパイロットで協力して航空機を運航する「ツーマン・コンセプト」が採用されています。
コックピットは液晶画面を活用した「グラス・コックピット」となり、速度計や高度計は、アナログ計器ではなく画面に表示されるようになりました。操縦中のスキャン(計器類を確認する目の動き)が変わったことも、パイロットとして適応すべき大切なポイントでした。
さらに、「フライ・バイ・ワイヤ」の採用も大きな違いです。DC-10型機では、操縦桿やペダルなどの動きをケーブルや油圧装置を介して補助翼や昇降舵に伝達していましたが、「フライ・バイ・ワイヤ」方式の777型機では電気信号によって操縦システムが制御されます。
例えば、操縦桿を右に倒した時の機体の垂直方向の動き方が、DC-10型機と777型機では異なるため、「フライ・バイ・ワイヤ」の特性を理解して操縦することが求められました。

羽田空港の誘導路を走行中のボーイング777型機。
その後、2019年にエアバス社のA350型機で機長を務めるようになりました。それまで「山」の字型だった操縦桿が棒状のサイドスティックに変わったり、計器類がより大きな液晶ディスプレイに集約されたり……。前の2機種とはさまざまな違いがありますが、最も大切なのがエアバス社の設計思想(AOP=Airbus Operational Philosophy)を理解することでした。