環境に優しくテイクオフ!飛行機の離陸について
2024.11.13「コックピット日記」は会員誌『AGORA』から続く、JAL機長によるエッセイです。
5人の機長が毎回交替で、パイロットや飛行機に関する話などをお届けします。
今月の担当は、ボーイング777型機機長の隅田 聡です。


離陸するボーイング777型機。
駐機場から滑走路へ向かい、エンジンの出力を上げ、離陸する―――。テイクオフはパイロットにとって、細心の注意を払うべきタイミングの一つであり、同時に空の旅の始まりを感じる喜びの瞬間でもあります。今回は、そんな飛行機の「離陸」についてお伝えしたいと思います。
飛行機の離陸方式を大別すると、「ローリング・テイクオフ」と「スタンディング・テイクオフ」の2種類があることをご存知でしょうか?
ローリング・テイクオフとは、誘導路から滑走路に進入した飛行機が停止することなくエンジンの出力を上げて離陸する方式です。離陸にかかる時間の短さや、騒音の少なさ、燃料効率のよさなど多くのメリットがあるため、日本航空のフライトでは、基本的にこのローリング・テイクオフが推奨されています。
スタンディング・テイクオフの場合は、誘導路から進入した飛行機が滑走路上のスタート位置で一時停止。ブレーキをかけたままエンジンの回転数を上げて、十分な出力が得られたらブレーキをリリース(解除)し、一気に加速して離陸します。
ローリング・テイクオフに比べると少し離陸までの時間はかかりますが、左右のエンジンの出力バランスが安定したことを確認してから離陸できるため、機体が左右に流されにくく、積雪などで滑りやすい滑走路での安全性確保につながります。冬の新千歳空港などではこのスタンディング・テイクオフが頻繁に行われています。
このように、滑走路上で「停止しない」か「停止する」かが、ローリング・テイクオフとスタンディング・テイクオフの基本的な違いです。しかし、実はローリング・テイクオフにおいて、滑走路上で停止するケースもあります。この時は、管制官から「ラインナップ・アンド・ウェイト(滑走路上で待機せよ)」という指示が出ている可能性があります。
例えば、4本の滑走路がある羽田空港などでは、離陸機と別方向からやってくる着陸機の間に十分な間隔を取るため、滑走路上での待機が必要になるのです。ただし、スタンディング・テイクオフのようにブレーキをかけたままエンジン出力を上げ、一気に加速するわけではありません。
ローリング・テイクオフでは、「クリアード・フォー・テイクオフ(離陸を許可する)」のコールを受けた後にブレーキを解除し、徐々にエンジン出力を上げて速やかに離陸していきます。
テイクオフ前のエンジン出力の決定も、私たちパイロットの重要な仕事です。適切なエンジン出力は、その日の機体重量や気温、風向き、滑走路の長さによって変わります。例えば、気温が高くなるほど空気の密度が下がるため、エンジン出力も低下するのです。